初めて筆を持ったのはいつだったろう?
「鉛筆」という名の硬い筆。
ふすまの木板にいたずら書きした記憶。
洗礼は親父のげんこつだった。
学級新聞に載った『かっこう』という詩。
虚構が絶賛されたときのむずがゆい思い。
文字通り「筆を下した」のは予備校生の時。
何の因果か、今、筆が仕事道具になった。
そっちの筆じゃなく、書くほうの筆のこと。
スラスラ筆を走らせている日はほとんどない。
執筆は遅々として進まず、ただいたずらに筆を汚す日々。
自ら「文章のプロ」などと言っておきながら、こっ恥ずかしい駄文のオンパレードだ。
だが、「これだけは!」と決めていることがある。
自分が納得する物語を、一つだけでいい、書き上げられたら、その時ボクは、静かに筆を置くつもりだ。
筆を折るのではない。
筆を絶やすのでもない。
ただ筆を置くのだ。
いつか筆を置く日。
そんな自分でありたいと思う。