「サインください!」
そう言われた。今日、八橋でサックス吹いていた時のこと。
先日はクリスマス会のオファーがあった。
かつては初の投銭をいただいた。
あそこで吹いていると、いろんなことがあるが、
「サインください!」は人生初だ。
その男の人は、かつて溶けかかった「アイス栗もなか」をくれた人だった。
久しぶりの再会。
彼は僕のことをよく覚えていて、確か、あの時はジャズのレコードをたくさん持っているというようなことを言っていたような気がする。
今日の彼は2枚のレコードジャケットを小脇に抱えていた。
近寄って何か確かめると、なんと!
Xジャパンのレコードだった。
僕の趣味のジャンルとは最も対局にある方々。
当然、その小物を介しての話はまったく弾まなかった。
「ヨシキが……」
「ああ、ヨシキっていましたっけ」
そんな感じ。
で、その後また吹いていると、そう、「サインください!」になったのだ。
そんなもの、こっちがねだるものだとばっかり思っていた。
ナベサダさんのこともあるので、僕はいつも色紙とマジックはバッグに忍ばせてある。
しかし、自分がサインをせがまれるとは、まったくの青天の霹靂。
何度も固辞したが、「記念だから、記念だから」と、何の記念かも分からないまませがむので、仕方なく、僕はミミズの這ったような字で、
「レスターYasushi2024.9.18」と、差し出された小さなノートの隅っこに、渡されたボールペンで、かろうじて書いた。なんとか震える字で書いてみた。
いやあ、まいったな、こりゃ。
そのことを帰って来て妻に告げると、彼女は笑いを押し殺して、押し殺しきれずにゲラゲラ笑った。
そうだよね。笑っちゃうよね。
しかもさあ、おまけに、握手までしちゃってさ。
さすがにナルシストも、今日ばかりは調子が出んな。
あんまり驚いてさあ。