夏の花。

夏の花ですぐ浮かぶのは「木槿」だ。
「むくげ」と読むが、ボクは今「もくげ」と打ってしまった。
どうりで漢字変換できないわけだ。
「むくげ」のことを「もくげ」と言ってしまうのは、あの男のせいだ。
死んだ親父が、そう呼んでいたから。
仙台から秋田に戻ってきた夏、サンダーバード2号みたいな形の熊蜂が、この花の周りでホバーリングしながら陣地を守っていたものだ。
「あの花、何だ?」
家の垣根に咲いていた紫色の花を見て聞いたボクに、父は自信満々こう答えたのだ。
「ああ、あれはモグゲだべ」
やがて、それは「もくげ」ではなく「むくげ」が正式名称であることを知ったが、簡単に修正できるほどボクの頭は軟らかくなかった。
それからいつも間違えるようになった。
もくげ、いや、むくげが咲いている時期は長い。
咲いては落ち、咲いては落ちしながら、秋田でも10月ごろまでけじめなく咲いている。

もう一つ、「夏の花」として忘れられない花がある。
原爆が投下されたヒロシマの「市の花」でもあるそれは「夾竹桃」。
夏に咲くこの「きょうちくとう」という赤い花は、原爆で草木も生えないといわれたヒロシマに、いち早く咲いた反戦と愛国の象徴だ。

ヒロシマの夾竹桃が咲きにけり(西嶋あさ子)

夏の花が咲き誇っている。
そういえば「モクゲの父」が亡くなったのは3年前のこんな暑い盛りだった。
お盆も間近になってきた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です