君の瞳に乾杯!

映画『カサブランカ』の中で、ハンフリー・ボガート(ボギー)が、イングリッド・バーグマンに言うセリフ。

Here’s looking at you,kid.

直訳すれば「君を見て、乾杯」とか「君を見ることについて乾杯」(なんじゃそれ!)である。

しかし、字幕はこうだ。

「君の瞳に乾杯!」

これはもう名訳として有名な話。

映画の翻訳者は単なる英語を日本語に訳す人ではない。

ギャグなども巧みに織り交ぜながら「1秒4文字」という制約の中で言葉を紡ぐ。

そんな「字幕に映るプロの技」という記事がネット新聞に出ていた。

『名作映画には名訳あり。字幕は単なる直訳ではない。わずかな字数の中には、字幕翻訳者の知恵と工夫がつまっている。セリフの前後のつながりを考え、行間を読み、的確な日本語を選び出す職人技が、観客を映画の世界にいざなう』

すごいなあ、と思った。

一方、事務所の仕事の一つである「反訳」の仕事は、聞いた言葉を正確に起こす仕事。

残念ながら、音声の中にギャグを織り込んだり、言葉を創造する裁量はない。

いや、逆にあってはいけない。

あくまでも正確に音声を言葉に起こす仕事だ。

同じ「訳」が付く仕事でも、「反訳」と「翻訳」はまるで違う。

どちらも言葉を扱うことには変わりないが、与えられた制約の中で、その目的に応じてどの言葉を選ぶか、語彙力とセンスが問われるプロの仕事だ。

同じく「訳」の付く「通訳」もそう。

特に「同時通訳」などは、圧倒的な時間との(制約)戦いの中で、語学力はもちろんのこと、専門性の高い言葉を瞬時に紡がなければならない大変な仕事である。

反訳が言葉の「正確性」を問われる仕事ならば、翻訳は言葉の「創造性」、通訳は言葉の「瞬時性」が問われる仕事と言えるかもしれない。

妻は大学時代「映画研究会」に入っていたほどの大の映画好きだ。

そして、ギャグやとんちも大好きで、言葉のセンスもある。

そんな妻の口癖はこうだ。

「生まれ変わったら、英語の勉強もして戸田奈津子さんみたいな翻訳家になりたい!」

ボクも同感。

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