謙虚なキラキラ

妻が親友と一泊旅行に行った。

さぞや孤独で泣いているだろう、との予測に反し、実に楽しい一日だった。

サックスを通じた出会いがあったのだ。

その1。八橋の野外練習でのこと。

「以前、ここでサックスを吹いている姿を見て・・・秋田でサックスを吹いている人を見るの初めてだったもんですから」

そう言って彼は自分のケースからサックスを取り出した。

「僕は東京生まれの東京育ちですが・・・」

秋田にはお父さんが移住をして云々、山王のお店に勤めている。

「サックスは始めたばかりで、吹けるのはアメージンググレース1曲です」

彼は謙虚にそう言ってはにかんだ。目が澄んでキラキラしていた。

「こんないい場所があるのに、もったいないです、秋田の人は」

とも。

「ステージで吹くと気持ちがいいですね」と言って、彼はたどたどしく持ち歌を吹き、「お邪魔をしてすいませんでした、先輩」と言い残して帰っていった。

僕は先輩格になった。

複雑にうれしかった。

それから1時間ばかり吹き、バスに乗って駅に向かった。

お昼をまともに食べてなかったので、腹が減っていた。

そば一でどんどん定食のかつ丼と冷たいそばを食べ、目的地のカフェ・ブルージュへ。

サックスを通じた出会い、その2。

小野リカルド倫太郎さんが企画した「ビギナーズ・ジャズ・セッション」に参加するためである。

ここで会ったのは意外なことに、国際教養大学のジャズ研の学生たちであった。

一人だけ秋田大学の学生もいた。

みんな謙虚だった。シャイな感じだった。そしてクレバーな感じだった。

おじさんは僕だけ。

これはどう考えても場違いな客ではなかろうか?

物好きにひょこひょこ飛び出してはきたものの、サックスのスキル的にも、経験値からも、年齢差からも、僕はだんぜん引け目を感じた。

が、まあ、来たんだから、やるしかない。

おじさんも頑張りましたよ!

リカルドさんにも「イトウさんがいてくれてバランスが良かったです」と、終わってから言っていただいた。

いやあ、実に演奏は楽しかったし、学生たちははんぱなく上手かった。

サックスの男の子はケニーGのようにソプラノを吹き、アルトで難曲のチック・コーリアの「スペイン」を難なく軽やかに吹き上げた。

彼は気さくにいろいろ尋ねてくれた。

僕のサックスに目を留め、「秋田でサックスを吹く人に会うの初めてです!」とも言ってうれしそうに目を輝かせた。

そういえば、今日2回目だったな、この言葉。

もう一人の大分県から来たAIU1年生の女の子も、寺久保エレナさんを思わせるテクニックで、ウェイン・ショーターを吹き上げた。

おじさんも発表会の課題曲などを、いっぱいセッションさせてもらった。

本当にみんな上手かったし、謙虚でキラキラしていた。

この子たちの中から、将来ジャズの逸材が育っていくのかもしれない。

ジャズに限らず、このスポンジのようなタケノコのような吸収力とイマジネーションがあれば、どんな道でもすっと伸びて輝く存在になっていけるだろう。

そんなことを還暦サックスおじさんは思いながら、興奮さめやらぬ中、40分の道のりをてくてく余韻を楽しみつつ家路につきました。

みんな、また会おうね!

ありがとう!

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